192話「定められた運命と不自由な命」
金玉が左右入れ替わっても別にいいじゃない。
前前前世は金玉じゃなかったかもしれない。前前前世も金玉だったなんて困るよ。
君の名は、録画したのを途中までしか見てないからよくわからないんで、さっさと本題に入りましょう。
名前からしてアイヌの人だとは想像してたけども。濃いな〜。君、ほんとうに一等卒?ってくらい、顔面のHPとATKがすでに強そう。ていうか顔がバーサーカー。そして胸毛が新種。
顔の傷も杉元と尾形を2で足して割って0.5引いたくらいの、顔面にCP表記されてるキャラ初めて見たわ。
トニ、ずいぶんとリスキーなことやってるけど、どういう目論見で?
たぶん土方さんの差し金だとは思うんだけど、どういったご用件で仕向けたのか。きな臭いにおいがより強まった、菊田特務曹長。
なんか話し方も洋画に出てくる、一見穏やかそうに見えて腹黒いタイプ。
そして尾形ははやり、毒は抜いたとはいえあんな傷を負ったんだから、かなり苦しそう。熱出てるよね、たぶん。
みんな尾形の目的が気になるところではあるけれど、ただの金塊目的なら気兼ねなく殺せると。
完全に命運を杉元に握られてる。
理由によっては生かす価値はあるし、そうでなければ躊躇なく殺す。
じゃあ気兼ねなく殺せない理由になり得るものはなんなんだ?
私は自分が死ぬ時くらいは自由にさせてくれ。と常々思っているが、人は大概死ぬ時も生まれた時もそこに自分の意思はない。自殺以外は。
突然の交通事故、事件に巻き込まれる、病気。あらゆる理由で人は自分の意思とは無関係に一生を終える。
しかしそれが、他人が決めた取り組みによるものだったら。
理由によっちゃ死刑。そんな判決を下すことがなぜ杉元には許されているのかと。
そりゃあ自分を撃って、リパさんに殺しに手を染めせようとした、許し難い理由はある。その理由だけで、殺すという選択はないのか。なぜ、金塊目的「だったのなら」気兼ねなく殺せて、逆を言えばそうであってほしくはないのか。
そして、杉元はリパさんに決定的な嘘をつく。
彼女がアイヌのための戦闘要員にするために育てられたという事実を。
これをもし細大漏らさず話していたのなら、リパさんは父親と狩りをした思い出も、すべては自分を戦女に育て上げるためだったと知れば、悲しむかもしれない。
しかし私にはそんな、やさしい嘘だとは思えない。
だって杉元はそんなウイルクが許せなかったのだから。胸ぐらを掴んで「あの子をアイヌのジャンヌ・ダルクにしようというのか」と憤った。
杉元はリパさんを、金塊争奪戦から無関係の場所へと導きたいのだろう。
これは、私が予てから危惧していた杉元のエゴだ。
リパさんは、父親にまつわる真実を知りたがっている。それを知り、彼女が今後アイヌ民族の存続についてどう考え行動するのかは、彼女の自由でなければならない。
金塊を見つけた先をどうするか、それを危惧していたリパさんは、やはりアイヌ民族の未来についてすでに思案しているのではないだろうか。
ともすれば、彼女を金塊争奪戦から解放するというのは、彼女の自由意志を汲まないエゴなのでは?と考えてしまう。
たしかにいくら聡明とはいえ、こんな幼い子供を民族の争いに巻き込むことは、大人としては庇護欲を掻き立てられるだろう。しかしリパさんは子供とはいえ、立派なアイヌ民族の人間であり、新しいアイヌの女になると宣言している。
リパさんにとって、アイヌ民族はこの先も続く、願う未来の中にも存在しているのだ。
そんな彼女の意思を、杉元はわかっているのだろうか。ただ彼は、彼女を父親が勝手に仕組んだ争いに巻き込まれた「被害者」として見ているのではないだろうか。
私はこの杉元の自分本位なやさしさが、のちにリパさんの判断を狂わせる要員になりかねないのでは?と不安を感じる。
杉元がリパさんを早く金塊争奪戦から解放してあげたい。という気持ちもわかる。
子供が親の強い思想で、人生を、運命を定められるなど、自由意志を蔑ろにする行為だと思う。
しかしそれは現代の私たち、民族などという限られた血筋に無関係で生きているから、そう思えるのかもしれない。
リパさんが、今回の樺太で北海道アイヌ以外の風習をとても興味深く見聞きしているように思える。
同じアイヌでも土地の風土やその土地に生息する動物によって、生活スタイルに違いがある。これらを興味深く観察することは、単純に興味であり、その探究心は少なくとも知る必要があるも本能的に感じたからではなかろうか。
リパさんが杉元が願うように、山で狩りをしてチタタプして…というのは、結局のところアイヌ民族が存続しなけれはなし得ない願いだ。
大人達の思惑に振り回される、かわいそうなアシリパ像が、杉元の中にはあるのかもしれない。
しかし、金塊の暗号を解く鍵を与えられた以上、リパさんはこの問題からもう既に無関係ではいられなかったのだ。
いつかこのやさしさのかけ違いがいで、リパさんの意思がねじ曲げられぬよう、祈るばかりだ。
守ることだけがやさしさではない。
鍵を握るリパさんは、金塊をどうするかを決める権利がある。
それについての決断になるような、父親が果たしたかった目的が、残酷ではないことを祈りたい。
仕組まれた運命を、生かすも殺すも、最終的には自分の判断なのだ。
【追記】
そもそも杉元がやさしさのかけ違いでリパさんと喧嘩したのは、串団子事件の時にもすでにあった。
あの時はリパさんに正論ビンタ(馬肉)されて、白石の計らいもあり無事ヒンナヒンナで仲直りしたが、今後もそうやって、やさしさのかけ違いから事件になり、杉元が気付かされるという付箋なのか、今回の杉元の嘘は。
杉元のモンペ暴走が、リパさんの意思わ知るきっかけになればいいし、そこに緩和剤としての白石の立ち位置。このバラバラの3人がうまく化学反応を起こして大団円に繋がると思いたい。
ていうか、このまま尾形も軍曹たちと中尉の元へ帰ったら、杉元が殺す云々以前に処刑されるのでは?
山で見つかった時だって、二階堂を捕獲できた途端「頭を撃ってヨシ!」って即決してたから、尾形には亡くなった花沢中将のご子息である軍神の役割も既にないと判断されてるわけで…。
まあその前に、なんでキロちゃんと共闘してたかの尋問があるだろうから、今後の尾形の処遇と立ち回りなども気になるところだ。