【ゴールデンカムイ妄想回】ナウシカとアシリパ
先日初めて、映画館でナウシカを観てきた。
その流れで家にあったナウシカ単行本を読み返したのだが、途中まで、アシリパはナウシカのアンチテーゼなのではないか?と思った。
なぜ「途中まで」かと言うと、ゴールデンカムイがまだ結末を迎えていないからだ。
実際にアシリパがナウシカのアンチテーゼとして描かれるのか、そうでないかの判断は、物語が終わってからでないとつけられない。
では私がアシリパがナウシカのアンチテーゼとして描かれるのではないか?に至ったのかというと、立場が似ているからだ。
ナウシカは風の谷の族長ジルの子であり、ジル亡きあと、いや、ジルがあの通り病で床に伏している状態である時から、谷の者たちはナウシカを族長代理として扱っていた。
アシリパも、アイヌを牽引しようとしたウイルクの子であり、ウイルクはアシリパにその引導を渡そうとしていた。
二人は共に、民族を率いる立場にある。
しかし私は、ゴールデンカムイでのアリシパの立ち位置は、ナウシカのようには描かれないと思っている。
これは完全に主観だが、野田先生ならば、あえて誰もが名前くらいは知っている有名作品の流れの中で、まったく別の方向へ舵を切る人だと思えるからだ。
つまり、アシリパはナウシカとは別の方法で民族救済の道を選ぶだろうと。
ここからは少し原作ナウシカ(映画は単行本2巻あたりまでを描いているが、単行本は全7巻ある)のネタバレになる。
ナウシカは結局、腐海の謎を知り、滅びゆく運命を強いられた人類、世界に対して、NOを突きつける。
命を等しく尊く扱い、できるだけ共存する道へ進むべく、ナウシカは自らを犠牲にする覚悟でラストダンジョンでもある「シュワの墓所」へと向かった。
そこに同行したのは、かつて火の七日間で世界を焼き尽くしたとされる巨神兵の生き残り。ナウシカは、再生しかけていたまだ未熟な巨神兵に名を与え、巨神兵の母の振りを徹底して貫くのだ。
その巨神兵も実は、裁定者であることが後に判明する。
巨神兵は破壊者ではなく、審判を下す者だったのだ。つまり神の領域に近い存在。
しかしナウシカは「神は人に在らず、草や虫にだって存在している」と語る場面がある。
そうなのだ。人は神にはなれない。人を神として祀りあげてはいけない。
アシリパはアイヌの偶像として、民族を導く立場になるような場面もあるが、アシリパもおそらく人間が神になることを望まないだろう。
なぜならアイヌの信仰でも、神は動物や物にも宿っている。人はその恩恵にあやかり、蔑ろにすれば報いを受ける存在であるからだ。
人間は、自然よりも下の存在であることを認めなければ、世界とは共存できない。生きてはいけないとされている。それがアイヌの教えであり、ナウシカの語る部分とも近いと思う。
ナウシカはあまりにも個人プレーだが、アシリパの場合は、原点として、杉元と相棒協定を結んでいる。という点から大きく違えるのではないか。
ナウシカの場合は、その人格ゆえに、クシャナなりミトじいなりユパなり、アスベルなど、多くの人が無意識にナウシカに手を貸そうとする。
しかしナウシカはあくまで、自分ひとりで「墓所を閉じる」という最後の役目を担おうとするのだ。
その結果、ナウシカは二度ほど死にかける。
命が肉体から離れそうになる時、ナウシカは「それでもいい」というようなことを呟いたり、そういった態度で命の終わりを受け入れようとするのだ。
ナウシカは自らの犠牲を厭わないタイプなのだ。
だがアリシパは、なんとしても生き延びようとする。そのためには杉元を相棒として必要とする。
生きて、地獄に堕ちても生きる覚悟があるように見える。たとえ生きた先が地獄であれ、地獄を歩くことを悲しむ余裕すら持たない。そういった意思が、ナウシカとは別の路線を目指しているように読み取れた。
ナウシカは蟲使い達から神のように崇拝される場面があるのだが、そこがアシリパとの大きな分岐点のように思えた。
裁定者だとは知らずに名を与えた巨神兵がナウシカを母と認識すれば、ナウシカは巨神兵が死ぬまで母を演じた。
ナウシカは自分の意志を介さず、相手から役割を背負わされる傾向がある。そしてそれを、どこかしょうがないと否定することを諦めつつあるように見えたのだ。
与えられた役割をこなしてしまうナウシカと、自分の役割を自分で決めようとしているアシリパ。
アリシパの「人を殺したくない」の信念の由来はわからないが、それが誰かの示唆であれ、教えであれ、願いであれ、アシリパは今、その信念さえも時として壊さねばならぬと覚悟している。
私はアシリパというか、ゴールデンカムイそのものが、もうひとつのナウシカ。欲望と信仰と恐怖にどう決着をつけるかの物語であるナウシカの、新たな可能性ではないのか。単行本ナウシカを読んでそう感じたのだ。
強く気高く、背負わされたものがあまりにも大きい少女。
彼女たちには、それぞれの役目があるだろう。物語の中でどちらが良き判断だったかなどの正解や不正解に白黒つける物差しはない。
どちらの選択もきっと「このキャラならこうすることが最もしっくりくる」というような、着地点に落とす。それが結末にどう波紋を起こしてひとつの場所に還っていくのか。
だから私は思うのだ。
「アシリパ、あなたならどうする?」と。
あなたはこの金塊争奪戦を、どう落とし前をつけるつもりなのか。あなたの父が始めた、ひょっとしたら敢えて金塊を巡る争いが起きることを願ったかのような、入れ墨人皮という暗号を。どこかから広まった、広めさせられたかもしれない、囚人に入れ墨、暗号、金塊というワード。それら断片的な情報で錯綜する姿を見て、アシリパ、あなたはそれでも和をもって納めようと思っているのか。または和睦ではないのか。
そんなことを考えてしまった。
その双肩には重すぎる運命を背負わされてしまった少女達が、それぞれに選んだ道を楽しみに今日は眠ろう。