どぶろく

ゴールデンカムイの感想や個人的に気になったことをまとめています。

【ゴールデンカムイ感想回】強く美しい人【222話~234話 家永・インカラマッ編】

ヤンジャン、GW無料公開ということで、本誌連載閲読から単行本へ切り替わった後から公開されているまでの14話を一気に読んだ。

一気に読んだので、感想の濁流で脳みそが氾濫しそうなので、そのままここにアウトプットすると、今度は私の処理能力が追いつかなくなる。最悪オーバーヒートを起こす。

なのでキャラクターごとに絞って感想を書いていく。

 

まず222話~234話の中でもっとも衝撃的で感情を揺さぶられた、家永とインカラマッに焦点を当ててい・・・。

 

家永ァアァぁァアアァあぁあ!!!!

(すでに感情の防波堤が決壊)

もちろん家永がリタイアしたこともショックだが、230話の頭、腹から血を流して倒れた家永が、黒い服を血のベタによりもっとも憧れ美の完成形と評していた、妊婦のシルエットになっている。この表現よ。

常に美や若さや強さ、最高の自分を作り上げるために罪を犯してきた男(うっかり忘れそうになるがじいさんなんだよな)が、死して完全体へとなったかのような描写。

家永の完成形が自分の身体から出た血液によって形づくられた妊婦の姿だったと、誰が想像できた?

美しさの象徴だと語った妊婦の腹部の曲線が、奇しくも自らの美のために取り込んできた数多の血液で描かれるとは、誰も想像できなかったでしょ?

 

子を宿した母体の曲線美に魅入られ、子を生んだ母親に聖母のような理想を抱いたまま、それを目にすることは叶わなかった家永少年。

見たことがないから、彼の中では永遠に完成することのない理想像として胸の中にあったのだ。

しかそれは、家永がどんなに他人から欲しいものを取り込もうが、それによって実年齢にそぐわない美貌を手に入れても、絶対に得られないもの。

それが、それがだよ。

何十年と胸中に抱き続けてきた理想像を守るために命を賭したがために、その姿で最期を迎えたってアンタ・・・。

 

あんまりこの言葉は使いたくはないんだけど、もう言語野の仕組み上、これしか出てこない。

 

エモすぎるだろ!!!!

 

完璧な母親を求めて三千里(どころではない)

どんなに凶悪犯だったとしても、どんなに無慈悲に、自分を完璧にするために人を殺めたとしても、生きてそこへはたどり着けなかった。

きっと、いや当然家永もそれはわかっていたはずだ。

 

この家永の結末は、彼が完璧を求め続けた結果として「よかったね」と言ってあげるべきなのだろうか。

でも「インカラマッさんが産むのを手伝いたい」と言った家永の願いは叶えられなかったね。

もし家永がインカラマッと谷垣の子供を取り上げていたら、どんな感動を彼に与えていたのだろうか。

目にすることが叶わなかった、赤子を抱いた母を重ねることができたのだろうか。

 

今思えば、アシリパの目を狙った家永に、百年後くらいにカラコンというとっても便利なものが発明されてると教えてあげたかった。

あとね、「ヒトプラセンタ」っていうサプリも誕生するの。わざわざ胎盤を食べなくてもいいのよ。海外からネットで個人輸入できるの。便利な時代でしょう?

私は怖くて手を出せなかったけど。

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インカラマッの出産だけど、アイヌ文化を継承している人も少ない中で、さらに産婆経験のある方のお話を取材できてたってことに驚いた。

これ、かなり貴重なシーンだと思う。

 

現在の日本のお産って、アイヌのように男女で取り出し方が違うって、聞いたことがないけど、これにはどんな意味があるんだろう。

もちろん作中に書かれている「長生きできるかどうか」にまつわる根拠があるのではないかと、これまでのアイヌ文化を見ていると感じてしまうのだ。

アイヌ文化には、非科学的なまじないのように見えて、実は合理的な部分が多い。

イオマンテにしても、小熊を敢えて育てて大きくするのは、そっちのほうが食べられる肉の量も多い。

そういった合理的な「生きる知恵」が、アイヌ文化の特徴であるような、ほかの文化にも見られることなのかはここでは言及しないでおく。(というかそこまで調べる時間がないのが正直なところなんだが)

 

現代の産婆の知識は知らんが、綿で肛門を押さえ(おそらくいきんで便が排出されるのを防ぐ役目だと思うが)性別によって胎児を回転させながら娩出というのは、へその緒の絡まり防止のような気がする。

 

それにしても、月島に神通力を行った際に見えたものはなんだったのだろうか。

月島に伝えることを躊躇う様子がないところを見ると、どこかで生きていると思いたい。だからこそ月島は聞かない選択を選んだのかもしれない。

もし、すでに亡くなっているのであれば、インカラマッはもっと悲しげな表情を見せたはずだ。そうではないのだとすると、どこかでいご草ちゃんは生きている。であれば、会いに行きたくなってしまう。

月島はそれを恐れたのかもしれない。

会いたいと願ってしまう自分の心を。

 

それにしれも、谷垣、インカラマッ、チカパシの、その場しのぎのはずだった擬似家族が、それぞれほんとうの家族になれたことは、この漫画の中でものすごく大きな意味があるだろう。

 

親子二代に渡って懐柔された兵士たち。

親の希望を背負わされた子供。

家族を亡くした者。

この漫画で、初めて血のつながりに希望を持たせた回だったと思う。

 

しかし一発で仕込んでしまうとは。

きっとラッコちゃん(勝手に今つけた)は強い子になるぞ!!